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zoom RSS 公認会計士高田直芳:実質無借金は合理的だと勘違いするメディアと上場企業の誤謬

<<   作成日時 : 2018/06/30 01:00   >>

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実質無借金は合理的だと勘違いする
メディアと上場企業の誤謬



「これは書き手の勉強不足だし、これに読み手の勘違いが重なると、誤解に拍車がかかるな」と心配になったのが、次の記事。
【資料1】日本経済新聞2018年6月26日
  • 実質無借金 6割に迫る
    上場企業17年度末 好業績で財務改善
    手元資金 問われる活用法

上記の記事を要約すると、次のとおり。
【資料2】
  • ニッポンの企業(ミクロ経済)は、好業績を背景に財務が改善しており、実質無借金企業は上場企業の59%を占める。

  • ただし、手元資金を必要以上にためこめば、自己資本利益率ROEなどの経営効率が悪化し、日本経済(マクロ経済)の停滞に繋がる。

  • これを「合成の誤謬」という。

いや、その分析の仕方は誤りだろう。

まず、「財務の改善」とは何か。
「自己資本の充実」や「財務の健全化」という答えかたであれば、半分は正しく、半分は誤り。

例えば、使用総資本のすべてが他人資本であった状態で、そこから手元資金(自己資本)を増やしていくことは、財務の改善です。
これは正しい。

ところが、その自己資本を増やしていくと、経営効率は徐々に悪化していきます。
ここも正しい。

経営効率が悪化する理由は、次の関連記事で説明したように、組織内部にはボトルネックが存在し、規模が大きくなるにつれて、ボトルネックが隘路となるからです。
これを「収穫逓減」といい、次の関連記事で説明したとおり。
【資料3:関連記事】

組織内部にはボトルネックがあるのだから、実質無借金を目指そうとしても、財務改善の効果は逓減する、と言い換えることができます。

上記【資料1】の記事は、たとえ効果が逓減しようとも、実質無借金を目指す財務活動は「合理的だ」と考えているようであり、これがマクロ経済レベルとの間で「合成の誤謬」を生むと考えているようだ。

しかし、この論理構成は、おかしい。


ここで考えなければならないのは、収穫逓減という現象。

収穫逓減は、自己資本が増加するときだけでなく、他人資本が増加するときにも現われます。

他人資本は、資金を機動的に調達でき、他人資本コストは損金算入できる、というメリットがあります。
返済義務という重荷を背負う必要がありますが、この低金利の時代に、加重平均資本コストWACCを低める効果は大きい。

いずれにしろ、自己資本を増やそうが、他人資本を増やそうが、どちらの場合にも収穫逓減という現象が現われる、ということです。

以上の説明を、図解すると、次の【資料4】になります。
【資料4】最適資本構成タカダ理論
画像

私(高田直芳)の書籍や論文などに対しては「図表を多用することで、ページを稼いでいる」「計算式が、数VCのレベルを超えている」などの批判を数多く頂戴しています。

しかし、「文章だけの分析」では、企業実務の奥深くに隠れている真相に気づくことはできません。
【資料5:関連記事】

図解や計算式を併用することによって、理論の不整合に気づき、新たな理論を構築する取っかかりとなるケースを、今までに何度も経験してきました。

その例を【資料4】で証明してみましょう。


まず、図表の左下にある原点Oから伸びる赤色の曲線は、他人資本を表わします。
増加するにつれて、逓減するのですから、凸型の曲線OABとして描かれます。

図表の右下にある点Cから伸びる緑色の曲線は、自己資本を表わします。
これもまた、増加するにつれて、逓減するのですから、凸型の曲線CDEとして描かれます。

図表の上半分において、おわん型の曲線(青色の曲線EFGHJB)で描かれているのは、使用総資本です。
これは、赤色の曲線と、緑色の曲線を、タテに足し合わせて描いたものです。

上記【資料4】で描かれている3本の曲線は、それほど難しいものではないことがわかります。


図表の右側に、それぞれの曲線を描く基礎となる方程式を明示しています。

他人資本方程式と自己資本方程式は、熱統計力学のボルツマン方程式を基礎にして組み立てているものなので、奇想天外な方程式ではないことを申し添えます。
【資料6:関連記事】

上記【資料4】の作図方法や方程式の導出方法については、次の拙著を参照。
会計&ファイナンスのための数学入門
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最初に、使用総資本のすべてが、他人資本であったとしましょう。
横軸上の線分OCすべてが、他人資本100%ということです。

ここで、ちょっぴり稼いで、自己資本が線分MCだけ増えたとします。
その結果、使用総資本に占める他人資本の割合は、線分OMに縮小します。

このとき、緑色と赤色の曲線を足し合わせた、青色の曲線は、点Bから点Jへと上昇します。
これは何を意味するか。
「財務の改善」であることは明らかです。

その他にもう一つ、重要な意味があります。
それは縦軸で明示している「企業価値」が上昇することです。
すなわち、財務の健全化(点B→点J)は、企業価値を高めるのです。

さらに自己資本を充実(点C→点M→点L)させると、企業価値は点B→点J→点Hへと高まります。

ここまでの過程は、企業にとっては「合理的な選択」となります。


ところで、カネあまりを反映して、自己資本が点Lから点Kへと増加したとします。
上記【資料1】の日経記事によれば、実質無借金を目指すことは、ミクロ経済のレベルでは合理的な選択になるらしい。

しかし、これはおかしい。
なぜなら、企業価値は、点Hから点Gへと低下しているからです。

実質無借金の企業は、横軸の点Kよりもさらに左にある可能性があります。
これは、企業価値が、点Gのところよりも、さらに低下している可能性があることを意味します。

このような状況に至っても、ミクロ経済レベルでは、合理的な選択といえるのか。
「それは違うよ」と反論するのが、【資料4】の図表です。


以上の説明を、【資料4】を用いてまとめましょう。

財務改善というのは、点Cから点Lまでの過程をいいます。
この財務活動が、合理的な選択だと評価されるのは、企業価値の上昇(点B→点J→点H)を伴っているからです。

それに対し、点Lを超えて点Kにまで自己資本を充実させる財務活動は、たとえ「財務の健全性」と誉めそやされても、合理的な選択とはいわない。
なぜなら、企業価値を減少(点H→点G→点F)させることになるから。

上記【資料4】にある図表や計算式を用いて証明すれば、ミクロとマクロの間に「合成の誤謬」は存在しないのは明らかです。
【資料7:関連記事】

上記【資料1】の記事の欠点は、実質無借金までは一本道であり、その道を進むことは合理的な選択だ、と考えている点にあります。

行程の途中に転換点(【資料4】にある点H)があることを、ご存じないようだ。
書き手の不勉強にこそ、誤謬があるといっていい。

ニッポン人は、メディアなどの権威に弱いからな。
上記【資料1】の記事を妄信した読者が「実質無借金は、企業価値を一本調子で増大させる」などと曲解しなければいいが、と心配になってきた。

〔文責 高田直芳 税理士 公認会計士〕
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